2010/11/30

ストックホルム国際映画祭と「告白」と中島監督。



ストックホルム国際映画祭が無事幕を閉じました。私はボランティアとして携わったので、映画がタダで見放題だったのです!東京国際映画祭でもボランティアとして働いた経験はありますが、こっちの方がいい意味で緩くて好きです。ということで、ドキュメンタリー映画を中心に計21本鑑賞!年内には、全ての感想文を書き終えたいと思ってます。

んでボランティアとして何をしたの?というトコですが、スウェーデン語ができなくて運転もできない私の選択肢は英語圏から来るゲストのアテンドくらいでした。もし日本映画が上映されるなら日本人俳優or監督のアテンドもできるなぁ、なんて軽い気持ちでいたのですが、上映作品が発表されると、その中に「告白」が含まれていました。よく調べてみると、中島哲也監督がゲストとして映画祭に来ることが判明!早速ゲストアテンドのボランティアを取りまとめてる人に「中島監督のアテンドをさせて!」とメールをして、即決まりました。


実際に会うまでは東宝の国際営業部の方と電話&メールのやり取りをしていて、中島監督と一緒に来る奥様のお二人に非常に気を使っていることが伝わってきたので私なんかがアテンドして大丈夫かな…という不安もあったのですが、お二人ともとても気さくな方々でした!

5泊6日の滞在期間でしたが、東宝の付き添いの方も含めストックホルムを楽しんで頂けたようでした。しかしタイミングが良いのか悪いのか、ここ1週間はとにかく雪、雪、雪…。中島ご夫妻はスキーをしないということでこんなに沢山の雪は初めてだったそうです。

そんな雪の中「告白」は3回上映されましたが、3回ともなんとチケットが売り切れ。日本ではもちろん注目された映画だったわけですが、スウェーデン人はどうやって知ったんだろう…。不思議でたまりません。

ここで簡単に「告白」のあらすじを。

同名のベストセラー小説が原作で、ある女教師が自分の生徒に伝える衝撃的な告白からストーリーが始まります。その告白とは、彼女の娘がここにいる生徒二人によって殺された、という内容。その後、関係者が次から次へと自分にとって都合の良い告白をしていきますが、問題は解決するどころかどんどん収拾のつかない事態へと発展していきます。

初回上映日は偶然私の誕生日だったのですが、上映前の監督の挨拶そして上映後のQ&Aセッションの通訳に挑戦しました。これも私なんかが通訳して大丈夫かな…という不安があったのですが、なんとか無事乗り切りました…。ということで26歳のテーマは<挑戦>に決定!

Q&Aセッション後の記者インタビューを終えると、皆でスウェーデン伝統料理を食べにレストランへと向かいました。中島監督の大好物はバーガーキングだという話から、「告白」の少年Aは女の子のことが実は大好きだったんじゃないかという話まで、とにかく内容の濃い数時間で一生忘れることのない誕生日になりました。

私は東京で初めて「告白」を鑑賞し、映画祭期間中にも二回鑑賞しましたが、何回見てもあの緊張感がたまらない。そして最後のシーンで森口先生が発する一言でなぜか涙がこみ上げてくる

今回、取材やQ&Aセッション、そしてお食事での会話などを通して監督本人の口から映画の見所を沢山聞くことができたことは本当に光栄でした。映画の裏話的なことは一切聞きたくないという人もいるかもしれませんが、私は知りたくてたまらなくなる人です。もちろん、まずは自分で鑑賞して自分なりの意見を持つことが重要ですが、実際の作り手から、なぜこの題材を選んだのか、なぜあそこであの撮影手法なのか、なぜこのキャストなのか、などの背景を聞いた後にもう一度鑑賞すると、同じ映画を見ているはずなのに新たな発見があったり、シーンの捉え方が変わったりと、とにかく映画がいかに深いモノかがよくわかります。特に中島監督に関しては「パコと魔法の絵本」「嫌われ松子の一生」もそうですが、作品への思い入れを強く感じるし、なんといってもこだわりというか、完璧主義というか、良い意味で物凄く神経質なところが伝わってくるので、何回見ても新しい発見があって飽きないし見応え十分!

ここで折角なので、「告白」に関する中島監督の発言で印象に残っているものを一部紹介します:

・言葉はコミュニケーションのツールであるはずなのに、登場人物たちは自分に都合のいいことしか言葉にせず、相手を全く理解しようとしない。

・まわりに自分の素直な気持ちを伝えられる人がいなく孤独を感じながら闇の中にいる彼らの姿を描いたこの作品は、ある種のコメディと呼べるだろう。

・特に日本人は言葉というものに頼りすぎていて、感情などを相手に伝えることを疎かにしている。

・直接話すよりもメールのほうが気が楽だ、というのは臆病な証拠であり、コミュニケーションが下手くそだということ。

・人間って結局自分のことがよくわかっていない。

日本の現代社会が子供たちでさえも生きづらい場所になっている…というのが痛いほど伝わってくる映画ではないかと思います。

残酷なシーンが多いけれども他人事とは思えないし、極端過ぎるとも思えない。むしろ納得できるというか、彼らのストレスが爆発する気持ちがわかってしまうというのは、日本社会が異常であることの証拠なのかもしれない。

原作がベストセラーになったこともそうですが、この映画がアカデミー賞外国語映画部門賞の日本代表作品に選ばれるということは、ある意味では問題なのではないでしょうか。どういう経緯で選ばれたのか知りませんが、将来に希望を持てない不健全な日本社会の現状を私たちが認めているという行為にも捉えられる気がします。それを世界中の人に知ってもらう良い機会なのかもしれませんが。というか既に世界中の色んな映画祭に招待されている作品だそうです。

ただ、私はこの映画の中で度々挿入される空のシーンが凄く好きで、Q&Aセッションの時に監督も言っていたことですが、広大な空と比べると人間がいかにちっぽけな存在かということを気付かされます。問題が解決されるわけではないけども、悩みを抱えている時とか辛いことがあった時は、下を向かずに空を眺めて、まずは心を落ち着かせることが大事なのかもしれない。

このストックホルム国際映画祭で「告白」という作品に再度出会えたこと、そしてなんといっても中島監督に出会えたことは自分にとって宝です。ありがとう映画祭!