2011/09/16

サービスがSpotify化する時に気を付けて欲しいこと。

スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス、Spotifyをご存知でしょうか?

Mashableによると、Facebookが来月音楽サービスをローンチする予定だそうで、そのパートナーとしてSpotifyの名が挙げられていたりします。

今日のブログでは、2009年の暮れにスウェーデンのブログ界で飛び交っていた”spotification“(Spotify化)という造語について話してみたいと思います。

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1. そもそもSpotifyって何?
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先日、Spotifyがアメリカ進出を果たした際にもちょこっと記事を書きましたが、まずは改めてこの企業について少しご説明します。(知っている方は、飛ばして下さい)

2006年にスウェーデンで生まれたSpotifyはクラウド型音楽配信サービスを提供しており、特に北欧での普及率が非常に高く、急成長中のIT企業です。(P2P配信サービスとも呼ばれていますが、大部分は自社サーバを利用)

ユーザーはPCやモバイルで1500万曲の中から自由に好きな音楽を聴くことができ、友人で利用している人がいればプレイリストをシェアすることも可能です。音楽を「所有」しないという意味では、自分の好きな曲を好きな時に放送してくれるラジオのようなものでしょうか。

アメリカに加え、ヨーロッパではスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、イギリス、フランス、スペイン、オランダの7か国でサービスを提供しています。

サービスプラン
は基本的に3つ:

①毎月のPC再生時間制限有り+広告有り=無料
②無制限PC再生+広告無し=毎月約600円
③無制限PC再生+モバイル利用+オフライン利用+広告無し=毎月約1200円

破格の値段、充実した音楽カタログ、友人とのシェア機能、ナビゲーションの容易さ、再生されるまでの待ち時間の短さなどはSpotifyの魅力的な特徴です。

iTunes Storeの【楽曲購入→ダウンロード】方式に、ある意味挑戦状を叩きつけたようなサービスですよね。また、Spotifyによって違法ダウンロードを行う人が減ったというようなことも言われていたりします。

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2. “Spotification”って何?
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そんな良い事だらけの急成長企業ですが、2009年の暮れにスウェーデンのブログ界では”spotification“(Spotify化)という造語が飛び交っていたそうです。Spotifyを初めとする多くのウェブ企業が、

・元々「フリー」だったモノを、

・自社の都合によって供給する量をコントロールし、

・そのモノを使用する際のルールを決め、

・料金プランを設ける

といったビジネスを築こうとしており、その現象をspotificationと呼んでいたそうです。ブログ界でどんな議論がされていたのか詳しいことは知らないのですが、恐らくこの状況を懸念する人たちが沢山いたんでしょうね。(上記については、ファイル共有等に関する研究を行っている私の大学の教授、Jonas Anderssonから聞いた話です)

スウェーデンでは音楽に限らずアニメ・映画などのエンタメコンテンツをファイル共有ソフトで「フリー」で落とす、という行為は日常茶飯事です。Spotifyが流行ってからは、その行為に手を染める人は減ったかも知れませんが、恐らく利用者はまだそれなりにいると思います。(ちなみに大多数の人はスウェーデン発のThe Pirate Bayというファイル検索サイトを利用)

そこには、コンテンツが「無料」という意味での「フリー」だけではなく、不特定多数の利用者が匿名で繋がれてファイルを交換し合い、企業や国とは距離を置いた形での「自由」な活動を行っている、という意味での「フリー」も存在しています。(その行為が良いか悪いかは別として…)

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3. サービスが”Spotification”する時に気を付けて欲しいこと。
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元々Spotifyは招待必要のFreeプラン(広告有り・時間無制限)と招待不要のOpenプラン(広告有り・月20時間まで)の二つの無料プランを提供していました。

しかしSpotifyは、今年4月にこのフリーミアムモデルを大きく変更することを発表しました。背景には、レコード会社の圧力がかなりあったとは思います。

その主な発表内容ですが:

・無料プランユーザーの一ヶ月の利用時間が10時間に減少
同一楽曲の再生は5回までに制限
・新規登録ユーザーは、登録から6ヶ月間経過後に上記の制限が加えられる

というもので、ユーザーからはそれなりの反発があったようです。

その後、ユーザー数にどんな変化があったかについて、先月music alleyに記事がでていました。ポイントを抜き出すと:

・無料プランへの制限は5月1日より実施
・3月時点:
フリー473万人+プレミアム102万人=合計575万人
(コンバージョンレート:17.8%
・6月時点:
フリー313万人+プレミアム154万人=合計467万人
(コンバージョンレート:32.9%
・3〜6月でフリーユーザーは160万人減、プレミアムユーザーは52万人増
※上記の数字はマンスリーでなくウィークリー・アクティブユーザーのようです。

ということで、一部のフリーユーザーがプレミアムに移行したことは確かですが、100万人近くがSpotifyを完全に去ってしまったことになります。

一方で、6月時点のプレミアムユーザーが全体のユーザーの約33%という数字は驚異的。Spotify、レコード会社、そしてミュージシャンにとっては朗報でしょう。

しかし、ユーザーを半強制的にプレミアムモデルへと移行させようとする姿勢には若干疑問を感じます。確かに、プレミアムユーザーでも毎月600円もしくは1200円というのは、よく考えてみれば超お得。Spotifyは自らのサービスがユーザーに与える価値というものに相当な自信があるからこそ、このような強硬手段を取れたのだとは思います。

しかしフリープランに慣れ親しんでいたユーザーからすれば、「無料」というお得感や「自由」という開放感が奪われるのはちょっと耐え難い。100万人のユーザーがSpotifyを去ってしまった背景はここにあるのでしょう。一部の人の、Spotifyというブランドに対する信頼感が失われてしまった、というのは言い過ぎでしょうか。

私は実はまだフリーユーザーですが「
同一楽曲の再生は5回までに制限」というのが相当厳しいです。これは月初めにリセットされるわけではないので、気に入った曲を5回リピート再生しちゃうと、プレミアムユーザーにならない限り絶対に聞くことはできません…。

結局はSpotifyを継続利用したかったら「お金を払わざるを得ない」という虚しい感覚が私にはあります。半強制的にではなく、自分が納得する形でプレミアムユーザーへと移行したいです。

やっぱり個人的に引っかかるのは利益を優先したがために100万人のユーザーがSpotifyを辞めてしまったこと。(いつか戻ってくる可能性もありますけど)レコード会社の利益に対する要求が相当厳しかったのかもしれませんが、例えばプレミアムユーザーの価値を更に高める、ということはできなかったのでしょうか。そうすることで反発を買うことなく、フリーユーザーをプレミアムへと誘導する手段もあったはずです。好きなアーティストのライブへの招待券が当たる、などアーティスト支援の仕組みをうまく組み込むことなども考えられるのではないでしょうか?

どんなに良いサービスでも、Spotify化が行き過ぎないよう、全ユーザーとの良好な関係を維持し続けることを、心がけてほしいものです。