2012/02/20

「どんな人材をリクルートすべきか?を考えることが大事」インタビュー#1 : CP+B Europe 中編

クリスピン・ポーター・ボガスキー(CP+B Europe)のエグゼキュティブ・クリエイティブ・ディレクター、グスタフ・マートナーさんのインタビュー前編に続きまして、今日は中編をレポートします。前回と比べて、よりデジタルメディアにクローズアップした内容になっています。



デジタルメディアはスウェーデンの広告業界にどのような影響を及ぼしたと思いますか?

スウェーデンに限らず、グローバルな規模で大きな影響を与えてるよね。

最も重要なことは、ブランドと消費者の間のタッチポイントが沢山増えたこと。20年前のタッチポイントと言えば、新聞、テレビ、映画、屋外メディアなど…。クライアントに対して、「あなたのブランドを露出できる場所はこの12箇所です」みたいなことが言えた。けどデジタルメディアが現れたことによって、ブランドは色んな場所に露出できるようになった。Facebookの会話の一部にもなれるし、YouTubeやSpotify、ラジオで話題になるかもしれない。だからまずタッチポイントが劇的に増えたことが一つ。

二つ目の重要な点は、デジタルメディアを使うと、消費者に何らかの「アクション」を起こさせる可能性があるということ。紙面広告だと、アクションへ導かせるのが難しい。もちろん、「今すぐここに電話して!」みたいな働きかけはできるかもしれない。けど、それをウェブ上のバナーと比べたら、バナーの方がアクションを起こさせやすいよね。この「アクション」というところに広告エージェンシーはもっと力を入れる必要があると思う。

三つ目のポイントは、会話。昔から、広告は面白ければ会話のネタになっていた。けど今は、その会話を測ることができるし、多くの人に見てもらうこともできる。だから会話を生むことを重要視したアイディアが大切になると思う。

最後のポイントは、色んなモノ・コトがデータ化されてきていること。そのため、昔と比べると今は特定の消費者にターゲットを絞ったコミュニケーションが可能になってきている。このデータをいかに上手く活用するか、ということがエージェンシーにとって今後とても大事になってくると思うよ。

これら全ての変化は、エージェンシーで誰がどんな役割を担うべきなのか、ということに対して新たな要求を突きつけている。

・エージェンシーの持つべきプライオリティは何なのか?
・どんな人材をリクルートすべきなのか?


必要とする人材を惹きつけ、彼らの才能を最大限引き出すことのできる社内環境と文化を、エージェンシーはちゃんと整えておく必要がある。優秀な人が魅力的だと感じてくれるような独自の文化をしっかり築くことは、
エージェンシーを育てる上で今かつてないほど重要になっているよ。

これらの変化と同時に、もちろん、広告業界において何年経っても変わることの無い事実もある。例えば、ブランドは常にストーリーを語るべきだということ。多くの人にリーチ(ストーリーを届ける)させるということ。今でも役に立つ広告の常識はずっとあって、それに加えて新しい変化も起きている、ってことだよね。



スウェーデンの広告業界がデジタル領域に強い理由って何だと思いますか?他国との違いは?

若者がコンピューターにアクセスしやすい環境が整っていたというのは一つ理由だと思う。もう一つは、スウェーデンにはシリコンバレーが無いから、アメリカであれば投資家の支援を受けた新興企業(スタートアップ)などに流れる人材が、ここだと広告業界に流れているのかな。三つ目は、パワーディスタンス(直訳:権力距離)について。これは、上司と部下の間の距離のことを指していて、文化によって距離の長さが違うんだ。ヒエラルキーのある社会ではこのパワーディスタンスが長い。部下は、自分の考えを思い切って口に出すことはほとんど無いし、上司は古いビジネスモデルを守ろうとするから、組織に変化が起きるのが比較的遅い。

一方でスウェーデンは、このパワーディスタンスが短いんだ。だからたとえ若い人でも、正しいと思ったこと、間違っていると思ったことは上司にちゃんと伝える。ここ数年はデジタル技術によって、メディア環境の変化が激しくなっている。そんな中で、若い人がエージェンシーで働き始めてすぐに、「ねぇ、なんで未だにこんな古臭いことをやってるの?('hey, why are we doing this traditional shit?')」って言ってきたら、組織はすぐ変わっていくんだよ。上司は若い人からのインプットにはちゃんと耳を傾けるし、理解も早いからね。これは、スウェーデンにとって有利な状況が生まれる理由だと思う。



今日、消費者を惹きつけるために重要なことはなんだと思いますか?広告が邪魔扱いされないためにはどんな工夫が必要ですか?

もっとも重要なことはRelevance(関連性)だよ。もしあなたがスキーに興味があるとして、仮に僕があなたに電話をし、「スキーリゾート一週間の滞在プラン、安くご提供できますよ!」と伝えた場合、このオファーは押し付けがましく聞こえないでしょう。けどもしあなたは人生で一度もスキーの経験が無く、今後もする気がないのなら、僕の電話をとても不快に思うよね。「なんで私に電話してくるの?邪魔しないで!」って感じるだろう。相手を苛立たせないためにはRelevanceが不可欠なんだ。



人が広告を「シェア」する動機って何だと思いますか?

これもまた、Relevanceだよね。あなた自身のイメージ(アイデンティティ)をどの程度表現してくれるか、というのがRelevanceと関係してくる。例えば僕にとって、良き父でいることが僕のイメージ作りに大切なのであれば、僕が子どもと一緒に過ごしていることをアピールできるなにかを、シェアしたいと思うだろう。良き父としてのアイデンティティを周りにシェアできるアプリがあるなら、僕のような男性をターゲットにすれば成功する可能性が高い。

よって「シェア」してもらう上で大事なのは、Relevanceと自己表現。しかし、この二つはあくまでも最低限必要な要素であって、アイディアそのものではない。「どんなアイディアだったら、人々にアクションを起こしてもらえるか?」というのは非常に難しい課題だよ。



以上がマートナーさんインタビューの中編となります。
私が一番気になったところが、以下の部分:
これら全ての変化は、エージェンシーで誰がどんな役割を担うべきなのか、ということに対して新たな要求を突きつけている。

・エージェンシーの持つべきプライオリティは何なのか?
・どんな人材をリクルートすべきなのか?


必要とする人材を惹きつけ、彼らの才能を最大限引き出すことのできる社内環境と文化を、エージェンシーはちゃんと整えておく必要がある。優秀な人が魅力的だと感じてくれるような独自の文化をしっかり築くことは、エージェンシーを育てる上で今かつてないほど重要になっているよ。
エージェンシーは、時代の流れをどう読んでいるのか?生活者のメディア消費行動の変化をどう捉えているか?それに合わせて、組織内にどのような変化を起こすべきなのか?特に、メディア環境が毎日変化しているような状況の中で、今後どういう人材が組織内に必要となるのか、ということをエージェンシーは素早く判断していく必要があるように感じました。

デジタルエージェンシーAKQAイナモト・レイさんも、次世代のエージェンシーを語る上で人材の確保についてこのように仰っていました:

「これからの広告でソーシャルメディアやモバイルなどのテクノロジーが欠かせないのは、いうまでもないことだ。しかしテクノロジーを使う上では、エージェンシー内部にテクノロジーのエクゼキューションが分かり、自らもある程度つくれる人材が必要となる。こうした人材がいるかどうかが、プロセスもそして最終的な仕事の質もかなり左右することになる。」(全文はコチラ
人材は重要な経営問題で、僕も仕事の半分近くの労力を才能発掘、リクルート、そして優秀な社員が残りたくなる社内風土の向上などに費やしている。(全文はコチラ

もちろん、「変化」ばかりをひたすら追うのではなく、マートナーさんも仰っていたように、
広告業界において何年経っても変わることの無い事実もある
わけで、「変わることの無い」重要な軸はブラさずに、その上で変化に対していかに柔軟に対応していくかが個人レベルでも問われているということでしょうか。(言うのは簡単ですけどね…。)


後編へ続く。