2012/03/21

「定量・定性調査に頼らずリアルワールドを探検せよ」取材#2:Saatchi&Saatchi 後編

前回は、ストックホルムのSaatchi&SaatchiでCEOを務めているハンス・シードウさんのインタビューレポート前編をお送りしました。

個人的に興味深いと思ったところを要約してインタビュー内容をご紹介、ということで、前回の興味深いポイント①広告エージェンシーとデジタルエージェンシーの融合でした。
スウェーデンの広告業界では、ここ最近広告エージェンシーとデジタルエージェンシーの区別がつかなくなってきており、前者が後者を雇うという関係だけではなく競合関係も生まれてきている、という話をご紹介しました。

後編では、Saatchi&Saatchi、そしてスウェーデンの広告業界が抱えている課題について質問をした際のハンスさんの答えをまとめてみたいと思います。ということでまず…

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興味深いポイント②:
3ステップメソッドの活用


Saatchi&Saatchiが今抱えている課題について伺ったところ、ハンスさんにこのようにお答え頂きました:
コミュニケーション・ランドスケープを理解するとか、デジタルの知識を十分身につける、ということに関しては、僕たちは今のところ問題無いと思う。それよりも、常にいい人材とクライアントを惹き付け、関係を維持することが、僕たちのような小規模のエージェンシーにとっては最も大きな課題だと思うよ。そのためには、自分たちの仕事の価値を常に高め続ける努力が必要だ。
ここで、Saatchi&Saatchiのスタッフが活用している3ステップメソッドについてご説明頂きました。その3つのステップとは:


① Discovery&Exploring
クライアントのビジネスを把握し、消費者のマインドを理解する
  ↓
② Insight
コミュニケーション上の課題を見出す
  ↓
③ Attraction
課題を解決するための表現方法(クリエイティブ)を考える


シンプルではあるけれども、ただ思いつきのアイディアで課題解決しようとしているのではなく、このようなメソッドに基づいて作業をしていることをクライアントに理解してもらうことは、信頼を得る上で大切だ、とハンスさんは仰っていました。

このメソッドが具体的にどのように活用されているかを、特にExploringに注目して一つ事例をご紹介します。

Saatchi&Saatchiは6年前から、Gainomaxという牛乳を使ったエネルギードリンクのブランドを担当しています。当時、クライアントはGainomaxの競合相手が、他社のエネルギードリンクだと思い込んでいました。けれども実際にはそうではなかった、ということがExploringのステップで判明したのです。
ハンスさん曰く、Exploringで重要なのは、

定量調査や定性調査だけに頼らずに、
リアルワールドを探検=Exploreしてみること

だそうです。
Gainomaxの調査では、プランナーが実際にトレーニングジムに足を運び、利用客に対して「ジムバッグの中を覗かせてもらってもいいですか?」と尋ねたそうです。すると、多くの人がエネルギー補給のために準備していたのは、水とバナナだったとのこと。(ちなみに、スウェーデンではバナナの消費量がとても高いそうです。)Gainomaxがライバル視すべきは他社のエネルギードリンクではなく、バナナだということが判明。そこでクリエイティブチームに与えられたチャレンジとは:

「ジムバッグの中のバナナをGainomaxに置き換えよ!」

出来上がったテレビCMがこちら:

なぜか貞子風…


こちらはカワイイ。


「サルにはバナナ、人間にはGainomax」というコンセプトを、6年間ずっと貫いてきたそうです。この二つのCMは4年前のものですが、YouTubeで視聴回数が多かったので選びました。(テレビ以外にどんなメディアを使ってコミュニケーションしているかは、把握していません。)

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興味深いポイント③
"Be seen as mission critical." 

(意訳:必要不可欠な存在になれ。)


最後にハンスさんに、スウェーデンの広告業界の課題は何か、を伺ったところ、このようにお答え頂きました:

これはスウェーデンに限らずどの広告業界にも当てはまることだと思うが、僕たちはクライアントにとって必要不可欠な存在だと認識されなければいけない。経済不安の時は、コミュニケーションにかける予算は簡単に縮小されてしまうもの。企業は、「まぁ、一年二年ぐらいカットしても大したことないだろう。」と思いがち。けれども、過去によくある話だが、経済不安の時にこそコミュニケーションに投資をした企業が、経済が復活した時の勝者となる。 
だから業界としてチャレンジすべきなのは、クライアントのCEOレベルの意思決定者に、僕たちの仕事が相手のビジネスにとって必要不可欠であり、彼らの成功に貢献することができる、ということを証明すること。この課題は昔からあるが、今でも非常に重要な課題だよ。

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最近「デジタル」という言葉にあまりにも敏感になりすぎて、情報に流されまくっている私。ですが、今回のインタビューレポートでご紹介した3ステップメソッドと、ハンスさんの"Be seen as mission critical"という言葉は、基本に立ち返ることの大切さを気付かせてくれているような気がします。
メディア研究者であるDavid Hesmondhalghは、自著の中でよく"change and continuity"という言葉を使っているのですが、最近私が大事にしている言葉です。当たり前のことではありますが、変化だけに気を取られずに、変わっていない事柄にも注意を払うこと。
ハンスさんのインタビューを通して、change and continuityについて改めて考えさせられました。


次回のインタビューレポートは、デジタルプロダクション会社として有名なPerfect Foolsの元メンバー、そして現在Jung RelationsというPRエージェンシー&Berghs School of Communicationという専門学校の講師を務めているフレドリックさんにしたいと思います。デジタルのバックグラウンドをお持ちの方で、広告エージェンシーに対して挑戦的な発言もされていたので、少し刺激のあるレポートになりそうです。