2012/01/05

文化産業の勢力図は今後どのように塗り替えられていくのだろう?

とうとう2012年になってしまいました。今年もどうぞ宜しくお願いします。年始一発目のブログポストということで、「振り返り系&今後どうする系」の内容にしてみます。

私は大学院でメディア文化研究を専攻しているのですが、この学問のことを個人的な理解で軽く整理した上で、文化産業の勢力図が今後どのように塗り替えられていくのか、というようなことに少し触れてみようと思います。



まず「メディア文化研究とは?」といった部分ですが、以下の三つのカテゴリーに分けて考えることができます(色んな考え方がある中のほんの一例です):

プロデューサー  ・  コンテンツ  ・  オーディエンス


まずプロデューサーとは、メッセージ発信者のこと。例えば…どのような権力構造の中で、どのような意図を持って、送り手は情報を発信するのか、というようなことに注目します。

続いてコンテンツとは、メッセージの中身のこと。
例えば…メッセージの中には、どのような記号が含まれていて、どのような社会的背景が読み取れるか、というようなことに注目します。

最後にオーディエンスとは、メッセージ消費者のこと。
例えば…どのような受容環境の中で、どのような社会的立場から、受け手は情報を消費するのか、というようなことに注目します。

以上の三つの視点で整理されているのが、
メディア文化研究です。しかし、あくまでも「視点」なので、当然のことながらプロデューサー「だけ」とか、コンテンツ「だけ」を研究するのは不可能で、どれか一つに軸を置いたとしても、他の二つを完全に無視することはできません。この三つの要素は相互作用し、複雑に絡まり合っているのが現状です。

ただし現代のメディア環境を見てみると、プロデューサーとオーディエンスの役割分担がとても曖昧な状況です。プロデューサーは情報を発信する「だけ」の存在ではなくなり、時にはオーディエンスの知恵を借りてメッセージ作りをしたり。オーディエンスも情報を受信する「だけ」の存在ではなくなり、時には自らプロデューサー的な存在になってメディアを動かしたり。

私たちが今暮らしているこのようなメディア環境のことを、アメリカのメディア学者であるヘンリー・ジェンキンス氏は:

Convergence Culture

と表現しています。Convergenceとは性質の異なるもの同士が何らかのきっかけで一体となる・融合することを意味し、彼はトップダウンなメディア企業主導のconvergenceと、ボトムアップな消費者主導のconvergenceが複雑に絡み合っている、指摘しています。

まず前者について。メディア企業によるコンテンツ作りは必ずしもメディアありきの発想ではなくなっており、
多様なメディアをまたいでストーリー展開を試みるコンテンツが生まれるようになっています。例えば、ジェンキンス氏はマトリックスシリーズを例に出し、この物語は映画だけでは完結せずに、コンピュータゲームやアニメなども複合的に絡めたトランスメディア・ストーリーテリングに挑戦している、ということを解説しています。


続いて後者について。技術発展のおかげで、企業だけでなく消費者である私たちも低コストでコンテンツを自ら作り、拡散できるようになりました。ジェンキンス氏はスターウォーズのファンカルチャーを取り上げ、現代のウェブ環境ではアマチュアの映像作品でも容易に流通させることができ、新たなカルチャー作りにファンが積極的に貢献することができるようになったことを指摘しています。
これはプロフェッショナルとアマチュアの境界線を明確に線引きするのが難しくなっていることも象徴しています。


ジェンキンス氏の著作である
Convergence Culture: Where Old and New Media Collideは2006年に出版されましたが、6年経った今この本を読んでもあまり違和感を覚えることはないと思います。


付け加えるならば、プロデューサーとオーディエンスの間に新しいプレイヤーが生まれてきていることではないか、と個人的には思います。(ここでのプロデューサーとは主に大手メディア企業を指しています)

今まで何十年もの間文化産業のビッグプレイヤーとして君臨していたプロデューサーらは、この新しいプレイヤーたちの活躍によって自分たちの存在が脅かされている、という危機感を抱いていたりするのではないでしょうか。


パッと思い浮かぶ新しいプレイヤーの例は、スウェーデン繋がりということでやはり
Spotifyです。欧米で人気を誇る音楽ストリーミングサービスのSpotifyは、オーディエンスの(潜在的な)ニーズに応える形で、違法ダウンロードよりも手軽に音楽にアクセスできるようにしたり、Facebookと連携して友人間で音楽をシェアすることを可能にしたり、スマートフォンアプリでは好きな時に好きな場所で好きな曲を聴けるようにしたりと、新たな音楽体験を私たちに提供してくれています。もちろん、プロデューサーである大手レコード会社等の協力無しには実現し得ないサービスではありますが、いずれにしても今までの音楽業界におけるプロデューサーとオーディエンスの緊張関係(特に違法ダウンロードに関して)に、風穴を開けようとしている事実は、大変重要です。

更にもう一つ新しいプレイヤーを挙げるとすると、自由報道協会について述べておきたいところです。元
フリージャーナリストの上杉隆が代表を務める自由報道協会とは、取材や報道を目的とした個人であれば誰もが自由に参加することのできる公的な記者会見を主催している非営利団体で、2011年1月に発足されました。今まで公的機関や業界団体などによる記者会見というのは、基本的には大手マスコミ記者のみで構成された記者クラブが主催しており、フリージャーナリストやネットメディア記者等は会見の場から完全に排除されていました(政権交代後に若干改善されましたが)。そんな中で自由報道協会が誕生し、記者は所属によって差別されることなく記者会見に参加できるようになった、という事実は非常に大切だと感じています。まだまだ課題は山積みではあるものの、自由報道協会もSpotify同様に、大手マスコミであるプロデューサーとオーディエンスの緊張関係に風穴を開ける役割を果たしていると言えるのではないでしょうか

老舗の大手メディア企業が、既得権益を守ることばかりを考えて消費者視点を見失っているように感じてしまう今日この頃。
それは例えば日本を見れば、大手マスメディアの横並び偏向報道体質新聞業界の再販制度電子書籍の浸透遅れレコード業界の著作権死守姿勢など、様々な業界に対して感じ取ることが出来るのではないでしょうか。

しかし、彼らが変革を恐れて現状維持ばかり気にしている余裕はもう無いと思います。プロデューサーとオーディエンスの間に生まれている新しいプレイヤーらの勢いは収まる気配がありません。彼らが私たちの社会、そしてメディア環境に多様性をもたらしてくれることに今後も大いに期待したいと思います。また、既存プロデューサーらにもそろそろ意識改革を起こして頂きたいものです。もちろんオーディエンスの私たちも、このような文化産業の勢力図の変化をしっかりとウォッチし、賢い行動に出ることが今後更に求められてくるのではないでしょうか。