Hans Roslingという人物をご存知でしょうか。
Global Healthの研究をしているスウェーデン人の大学教授です。自ら開発したグラフ作成ソフトを駆使して世界の経済的・社会的な動きに関する統計データを分り易く面白楽しく且つ深刻に分析する独自のプレゼンスタイルが、彼を世界的な有名人(そして軽く国民的アイドル?)にしました。
そんなDr. Roslingがストックホルムで無料講演をやるということで、先日参加してきましたよ。ウェブで彼のレクチャーを聞いたことはあったのですが、折角なら生でup-to-dateな話を聞いてみよう!ということで。
※上に貼ったビデオは彼の最新の講演映像(2010年6月)です。日本語字幕も付きます。
私が聞きに行った講演の映像に興味ある方はこちらからアクセスしてください。1時間半ほどありますが、見る価値十分にあります。
私が勝手にまとめると、彼の一貫した主張というのはこれかな:
West(欧米諸国)とdeveloping countriesという区分けはもうとっくに時代遅れだ。中国やインドを含め、多くの国々がもうWestに追いついている。我々が注目しなければならないのは特にサハラ以南の著しく貧しい国々であり、彼らの経済発展を促して人口増加を止め、生活水準を上げて健康な国にする必要がある。また、地球温暖化問題の深刻さをもっと自覚し、皆で協力し合って生態学的に持続可能な世界を未来の人類のために残そう。
…ということでもう少し詳しくbreak downしてみます。
①Westとdeveloping countriesに区分けすることはもう無意味だ:
・【 乳幼児死亡率↓ × 寿命↑ = 健康な国 】この基準を考慮すると、今から50年以上前は確かに世界中の国々をWestとdeveloping countriesに二分することができた。しかしそれはもう過去の話だ。例えばイランとスウェーデンを昔と今で比較してみよう。1950年のイランは女性一人当たり子供7人出産/寿命45歳だったのに対し、スウェーデンは女性一人当たり子供2人出産/寿命70歳という健全な数字。この数字を見て分かる通り、当時のイランは明らかにdeveloping countryだった。では2010年はどうか。なんとイランは出生率がスウェーデンより低く、寿命は1950年代のスウェーデンと同じレベルにまで上がった。同様の変化がアメリカとベトナムを比較した時にも起こっている。中国やインドの成長ももちろん例外ではない。
・無知な人が多すぎる。未だにこういった国々をdeveloping countriesと呼ぶ人がいるのは、メディアと教育のせいである。我々は与えられた情報を鵜呑みにするのではなく、クリティカルに捉えることで知識レベルを上げる必要がある。
②サハラ以南の著しく貧しい国々に注目すべき:
・人口増加が止まらない。一部のアフリカの国などを見ると、未だに【 乳幼児死亡率↑ × 寿命↓ 】という貧困に苦しむ国が多く存在する。しかし、それらの国々でも人口増加を止められるほど死亡率が高くないのが現実("death is too low all over the world to be able to stop population growth")。人口増加を止める唯一の方法は、人を大量殺戮すること("when you kill people, death can stop population growth")であり、50年代以降の出来事でいうとカンボジアのポル・ポト政権下での大虐殺とルワンダ大虐殺のみ。
・彼らに取って幸せとは何だろう。決して金を儲けることではない。求めているのは、国の経済が発展し、キレイな水をくみに行く時に手押し車を使えるようになることだ。そうすれば彼らの国々の乳幼児死亡率を下げることができ、尚且つ寿命は延びて生活もある程度安定するため、子供の数は二人で十分になる。 我々が目指すべき計算はこれ:
1+1=2-0=2
男性と女性の間に二人の子供が生まれ、子供は死ぬことなく新たな世代を築いていく。この循環こそが生態学的な持続可能性("ecological sustainability")である。
③地球温暖化問題をもっと深刻に考えるべき:
・我々は各国の二酸化炭素排出量しか見ていない。中国は我々が消費するモノを生産するためにも多くの二酸化炭素を排出している。それなのに、いつも比較に使われるのは各国の排出量のみ。我々は消費にかかる排出量と生産にかかる排出量のどちらを計算すべきなんだろうか(" should we calculate the emission based on our consumption or based on our production?")。
・二酸化炭素排出データが2006年で止まっている。
我々は、地球温暖化問題を未だ深刻に捉えきれていない。人間というのは、物事が深刻になってから初めて数字を測るんだ("when you get serious you start to measure.")。
・地球温暖化の影響を一番受けるのは中国とインド。
だからこそ彼らは対策に真剣になっている。中国は太陽エネルギーや電気自動車に力を入れているが、その反面アメリカでは最も成功している企業がツイッター、under armor(下着ブランド)、UFC(プロレス)というちょっと恥ずかしい現実。
地球温暖化問題も核軍縮問題同様に、先進国の自己矛盾(ダブルスタンダード)がありますね。そして前回のポストで核軍縮問題がメディアで真剣に取り上げられていないと書きましたが、地球温暖化問題でさえもちゃんとメディアが報道できていないという現実。
だからといってHans Roslingのような人の話を鵜呑みにしてはいけない(当たり前だけど)。彼も講演を終える前に、"don't just listen. be critical."と。本当にその通り。彼は世界をかなりマクロな視点で分析していて、尚且つ世界中の人々が理解しやすいように必要以上に物事を単純化("oversimplify")しているので気をつけないといけない。それでも、メディアが報道しない現実を語ってくれるのはありがたい。欲を言えば、政治的観点からの分析もあったら面白そうだけど。実際にイランの例に関しては、政治がもっとうまく機能していれば国民の健康レベルは上がると言っていたし、そこらの話をもっと聞いてみたいな。
あぁ勉強しなきゃいけないこと多すぎる、知らないことが多すぎる。