2011/08/05

妊娠をしたアメリカ人「男性」のトークを聞いてきました。

北欧で最大のLGBTイベント:Stockholm Prideが現在開催中です。
(LGBT=Lesbian/Gay/Bisexual/Transgender)

少し前にこのイベントのプロモーション企画に関する@Kohtanさんの記事を読んだり、また6月には国連でLGBTの人権を擁護する決議案が可決するという動きもあったので、個人的にちょっと注目をしていたイベントでした。

1週間だけですが、毎日朝から晩まで色んなセミナーやパーティーが企画されてます。また、世界各国(特にアフリカ)から活動家らが集まっているので、国際色豊かな印象です。その中でも私の興味を引いたのは、妊娠をしたアメリカ人男性Thomas Beatieによるトーク。


Thomas Beatieホームページより


Thomasは「女性」として生まれたものの、心の中は「男性」でした。性転換手術を行う際は女性生殖器を残すことにしたため、妊娠できる体だった、というわけです。(って物凄く省略した紹介ですみません)

すでに彼は3人も子供を産んでいます。

今回のイベントには家族みんなで来たそうですが、トークは奥さんのNancyと二人で:

特に何かを期待してたわけではなく、興味本位で参加してみただけなのですが、彼の語る壮絶なストーリーに物凄く心打たれ、何度も涙が出そうになってしまいました。と同時に、この二人はユーモアセンスもあったので、笑いの絶えない楽しい一時でした。

そしてなんといっても、ありきたりな感想ではありますが、社会の見方を変えるきっかけを与えてくれました。

彼のストーリーをここで全て再現するなんてことはできませんが、いくつか記憶に残ってる部分をメモ書き程度に記してみます:


・何人もの医者に彼の「異常な」出産のサポートを拒否されたこと

・妊娠についてネットに相談したら、翌日にはそのことが世界中に広まってしまったこと

・アメリカのLGBTコミュニティに「メディアに出るな」などの脅迫を受けたこと

・子どもの出生証明書の手続きが上手くいかず結局「養子」という形になったこと

保守的な考えを持った近所の人たちに、なかなかカミングアウトできず悩んだこと

・けど近所の人を集めて正直に全てを話したら、快く受け入れてくれたこと

・タブロイド紙のレポーターに「15万ドルやるから写真撮らせて」と言われたこと

・近所の人たちが逆にパパラッチたちの写真を撮ってくれたこと

・父親に性転換したことも結婚したことも子供ができたことも、未だに理解してもらえてないこと


等々…。


この中でも一番衝撃だったのが、アメリカのLGBTコミュニティに拒絶されたという話。

トランスジェンダーの男として妊娠したことについて、ネットを通じてコミュニティに相談をしてみたところ、それがメディアの注目を集めてしまった…という予想外の展開になってしまったわけですが、Thomasらが求めていたコミュニティ側からのサポートは、残念ながらほとんどなかったそうです。

サポートがなかっただけでなく、彼らに対して卑劣な脅迫行為もあったとのこと。要は、「男性が妊娠した」という驚愕の事実が世の中に知れ渡ってしまうと、LGBTコミュニティに対する社会の目が余計厳しくなり、嫌悪感も増すかもしれない、と彼らは強く思い込んでしまっていたようです。アメリカで影響力のあるコミュニティのリーダー数人から直接電話がかかってきて、「メディアで目立つな」的なことを実際に告げられたりもしたそうです。

しかし、Thomasはこのように考えていました。


ずっと隠れていても仕方ない。
多様な価値観を共有できるオープンな社会を作るためには、
まず自分のような人間が存在することを、
社会に広く知ってもらうことが必要である、と。
自分は「pregnant man」ということで注目を浴びたが、
そのうちそれが普通の出来事になって、
メディアに取り上げられないようになる日が訪れる、と。

このトークは本当に貴重な体験でした。

恥ずかしながら、私は今まであまりLGBTの人たちの現状や立場について考えたことがなかったので、これは良いきっかけになったと思っています。

日本のLGBTコミュニティの状況はどうなっているのでしょう?Stockholm Prideのような、大規模な議論の場ができると良いですけどね。

偏見っていうのはどうしてもそう簡単には無くせるものではありませんが、なんとかして色んな価値観を理解できる人間になりたいものです。きれいごとかもしれませんが、Thomasの話を聞いて純粋にそう感じました。