2011/07/06

スウェーデンのバーガーチェーンが「牛肉の消費量を減らそう」ってどういうこと?



環境に優しいのは地産地消?それとも肉の消費量を減らすこと?

環境科学技術ジャーナルの発表によると、毎日の食生活全てに地産地消を取り入れる行為よりも、一週間のうち一日だけでも食事に赤肉(恐らく牛と豚かと)や乳製品を避ける行為のほうが、環境に優しい(=CO2排出量が少ない)とのこと。

地産地消の一つの利点としてよく挙げられるのが「輸送コストの削減」ですが、アメリカの一般的な家庭における食品のカーボンフットプリント(どこでどれだけCO2が排出されたかを「見える化」すること)を調べると、輸送時にかかるCO2排出量は全体の11%、そして83%はその食品の栽培→製造過程で排出されているそうです。また、食品によってもCO2排出量は異なり、特に赤肉になると鶏肉や魚に比べて平均150%のエネルギーを必要とするんだとか。
(以上、参考記事①

地産地消運動は地域経済の活性化という意味でももちろん大切ですが、「肉の消費量を減らす行為は環境に優しい」という点に注目して、スウェーデンの有名なファストフードチェーン「Max Burgers」のここ10年における健康・環境に配慮した取り組みを見てみたいと思います。とても興味深いので。


◎2000年:「fresh」をキーワードに新しい戦略を立てる。 →バーガーの脂肪分・塩分・糖分を減らし、遺伝子組み換え作物とトランス脂肪酸を取り除く。
→サイドオーダーにはフレンチフライ以外のオプションも用意。
→糖分を含まない飲み物を10種類用意。
→体に優しいライ麦パン(黒パン)を用意。
→店が提供する牛肉・鶏肉は100%(その他の食品は90%)地産地消。

◎その後、Max Burgers(以下MAX)は環境負荷低減への取り組みに力を入れる。
→環境系NPOの調査結果によると、MAXのCO2排出量80-85%分は原因が牛肉にあることが判明。
→カーボンオフセットのためアフリカに木を植える。
→新店舗の電気使用量の15-20%はソーラーパネルで賄う。
【これが驚き!】客に牛肉の消費量を減らしてもらうための戦略として:
・牛肉を使用しないアイテムを増やす(以前よりも30%アップ)
・MAXメニューのカーボンフットプリント情報を公開
・鶏/魚/ベジタリアンサンドイッチを定期的に食べるよう客に勧める

◎2004年:監督が30日間マックのみで生活するドキュメンタリー映画「Supersize Me」が公開
→MAXは対抗策(?)として「Minimize Me」キャンペーンを展開:
・客が90日間MAXのみで生活し、35kg激減。
・2年後に同様のキャンペーンで、今度は複数人をMAXダイエットで競わせる展開に。

◎結果:MAXはヘルシーで尚且つ環境に優しいバーガーチェーンとしてしっかりと収益を確保できるビジネスを確立。

現CEOのBergfors氏によると、競合他社の利益率が2-5%程度に対し、MAXの利益率は11-15%とのこと。
更に、彼はインタビューにこう答えています:
「みんなと同じように私たちも利益を出したい。だが、それを最優先するわけではない。利益を最大化しなくても、私たちは人間の健康や地球環境に配慮することができる。」(以上、参考記事②

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私自身はMAXには一度しか入ったことがなく、今までは「スウェーデンのマック」程度の認識しか持っていませんでした。しかし今回の記事を読んでブランドイメージがガラっと変わりました。

このような一連の活動を長期に渡って持続的に行っていくことはそんなに容易いことではないと思います。「環境に優しいのは、肉の消費量を減らすこと」なんて情報を受けたら、普通のバーガーチェーンであれば目を瞑りたくなるのではないでしょうか。そんな中、MAXはこの社会的課題に真正面から向き合い、しっかりとビジネスで解決しようとしています。しかも、私たちの健康にもちゃんと配慮している。現CEOは創業者の息子、という同族経営だからこそ可能な大胆な戦略かもしれませんが、その姿勢には競合他社及び異業界の企業も見習えるかと思います。

つい最近イケダハヤト氏のブログCSV(Creating Shared Value = 共有価値の創造)について知りました。これはハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した考えで、社会問題の解決と企業の競争力向上の両立を目指そう、というものです。より詳しい解説はコチラが参考になります。

まだCSVについての私の理解は浅いですが、今回紹介したMAXのケースはあてはまるのではないかなと。まだ彼らの取り組みは現在進行形で、そう簡単に結論を出すことはできないのかもしれませんが、私たちの健康と地球環境に配慮したビジネスを展開し、その中で利益をしっかりと生み、更にはブランド価値向上にも結びつけている、と評価をすることができるのではないでしょうか。

Harvard Business ReviewとMAXのホームページぐらいにしか目を通していないので、より具体的な全体像はまだ見えていませんが。

一風変わった企業でなかなか面白い取り組みをしているので、今後もちょこちょこレポートしてみたいと思います。



参考記事:
①Harvard Business Review - Local Food or Less Meat? Data Tells The Real Story (6/20/2011)
②Harvard Business Review - A Swedish Burger Chain Says “Minimize Me” (6/30/2011)